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おとこ鷹

おとこ鷹_b0052811_17163354.jpg久し振りで歴史小説を読んでみた。
・・・正解。
めちゃめちゃおもろかった。

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子母沢寛には、日野に通ってることから新撰組に興味を持ち、そこから有名な小説を書いてることを知った。
新撰組自体はまだ読んではいないが、どこかで読んでもみたい。

勝海舟の親父との話だが、ともすれば「金」一辺倒になるような自身の価値観を振り返るのにもよかった。
今や廃れた、というよりもその影も形もないような「江戸っ子の『粋』」がそこにはあった。
思い出されることや反省させられること、感慨、そんなを。

麟太郎(のちの海舟)が鉄砲500丁の製造を命じられて、図面を引き、それを腕はいいが酒ばっかり飲んでる道楽ものの職人の鉄五郎に頼み、それを遂行する際のおっさんの覚悟と思いを吐くところには”はっ”とさせられた。
「おい岩さん、でえぶ前のことだがおれあ甲州路を流れ歩いて、極道をしてる時に、貧乏旅籠の一と間で相宿をした京から下ったという青っ白い侍に言われた事があるんだ。ひでえ雨の夜でなあ」
「ほう」
「その人が人間というものは前世に余っ程悪業でもつんだ野郎でなければ大抵な奴でも一生に一度はきっと、うぬが力の有りったけを絞り出して働く事にぶっつかるもんだというんだ」
鉄五郎が元より酒もちょっぴりのんだだけ、茶漬料理にも手をつけず、話していてだんだん真剣になるのに、岩次郎はびっくりしている。
「おれはあな、その時にそう思った、べら棒め、じゃあどうしてこの鉄五郎が、この年になるまでそんな仕事に一遍もぶつからねえのだ。もう、こうして頭あ白くなり、半分棺桶へ足を突っ込んでいるってのに、こ奴あ偉え、さあ俺が腕でやれるか、やれねえか、どんなもんだろう、それが心配で背中がぞくぞくするような命がけの仕事に巡り合わねえじゃねえかとな。え、おれあ、実あ名前だけは偉え先生方の図で鉄砲だって二度や三度拵えたことは拵えたんだ」
鉄五郎はせせら笑った。
「が、初っから、こ奴あいけねえ、気の毒だが引き金を引いた奴の命は吹っ飛ぶ、そう思いながらやったもんだ、だから、試砲の時に引き金を引いた奴ばかりか、周囲の者まで大怪我をしたり死んだりした。おい、鍛冶屋風情がどう腕をふるって見たところで、拵えろと指図の先生が怪しいんじゃあ仕方があるめえじゃねえか」
「それあそうだね」
「ところが今度ばかりは違っていた。引いた図に一分の隙もねえ、その圧銅の力まできっちりとはじき出してあるんだ。おれあ、この図を見た時に、ああこ奴だ、あの甲州の安旅籠で侍の言った事は―老いさらばえたが鉄五郎という男一匹がこの世に生まれて来た命を打ち込む仕事はこれだったんだとなあ」
岩次郎はうなずいている。
「もし、万にひとつこんどの鉄砲に何かあったら、おれあその場で死ぬ気だよ。え、おれあ江戸っ子だ、嘘あつかねえ」
岩次郎は鉄五郎の眼にきらりと光るものの走っているのを見て自分も堪らなくなってきた。


ちょうど金曜日に職場の先輩と飲んでいて、言われたことを思い出した。
「経験したいろんなことが一つ所を決めたときに必ず生きてくるよ」と。

うむ。

迷わずに走ろう。
by makoto_nakamu | 2008-08-24 17:13 | 読書 | Trackback | Comments(0)